潮騒
美雪と別れた後で、マサキからのメールが入った。


当分帰れないかもしれない、という旨のそれに、あたしは一気に落胆する。


何か危険なことでもするのではないかと、不安ばかりが付きまとう。


それでも結局は、自分の家に戻った。


いつの間にかまた降り出した雨は、夕方の空を漆黒に変えていた。


と、そんな時、鳴り響いたチャイムの音。



「ほーい。」


何の気なしに出るべきではなかったのかもしれない。


玄関のドアを開けたそこに佇んでいたのは、ボストンバッグを抱えたカオルちゃんと、申し訳なさそうな顔をしたレン。


ぎょっとした。



「マジで悪ぃ、ルカ!」


レンは両手の平を合わせながら、



「俺もさすがに止めたんだけど、カオルちゃんがさ、じゃあ死ぬとか言い出して。」


話が全然読めない。


でもボストンバッグを抱えた彼女の腕は僅かに震えていて、その瞳は赤く染まっていた。



「ちょっとこれ、どういうことなの?」


怪訝な顔しか出来ない。


訪れた沈黙の中、しとしとと雨音だけが響きながら、



「…家出、したの。」


カオルちゃんの呟きは、消え入りそうなほどにか細いものだった。


固く結ばれたピンク色のその唇。

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