潮騒
つまりはカオルちゃんは家出をし、でも行く場所はなかった。


街にいれば警察に補導されかねないし、だからって漫画喫茶などに行けるような身分証も、ましてやお金もない。


だから泣く泣くいとこのレンに助けを求めたけれど、うちに帰るようにと説得された。


じゃあ死んでやる、と言った彼女。


困りあぐねたレンは、何故かカオルちゃんをあたしのところへと連れてきた。



「バッカじゃないの?」


とりあえず家に入れてあげたとはいえ、話を聞く限りでは、くだらなくて嫌になる。


何より、どうしてあたしがそんなことに巻き込まれなきゃならないのか。


腹違いの妹の家庭事情なんて、知ったことではないというのに。


怒り心頭で肩をすくめるあたしをよそに、レンはさらに申し訳なさそうな顔をして、



「そんで俺、これからどうしても外せない用があってさ。」


「はぁ?!」


「だからとりあえず、カオルちゃんが落ち着くまではここにいさせてやってくれない?」


この期に及んで何を言い出すのかと思えば。


つまりはレンは、カオルちゃんのことをあたしに押し付けるということだ。



「おじさんには俺から話しておくし、マジでこの通り!」


「………」


「なぁ、頼むよ!」


ふざけるな、という顔をしたあたしに目もくれず、彼はそれだけ言って逃げるように部屋を出た。


調子の良い男――レンには呆れ返る。


取り残されたあたしとカオルちゃんは、重い空気の中で、どちらからともなく目を合わせた。

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