潮騒
あれからどれくらいが経っただろうか、少し落ち着いたカオルちゃんはその場に座った。


そして嗚咽を混じらせながらも、



「ずっとちゃんと聞いたことなんてなかったけど、でもあたしにお姉ちゃんがいるのは何となく知ってた。」


「………」


「だからお父さんが一緒に暮らすなんて言い出した時、家族を壊されるのが嫌だったの。
お父さんを取られそうで…」


カオルちゃんは唇を噛み締める。


そして意を決したようにあたしの目を真っ直ぐに見据え、



「あたし本当は、お父さんもお母さんも大好きなのっ!」


「うん。」


「過去に何があったって、注いでくれた愛情は嘘なんかじゃないんだもんっ!」


「うん、そうだね。」


もう、この子に嫉妬する理由がなくなった。


確かに少し羨ましくはあるけれど、でも、それが憎しみに変わることはない。


彼女は息を吐く。



「…ただ、不倫してたなんて事実を、あたしが受け入れたくなかっただけ。」


静かに響く雨の音。


純粋だからこそ苦しむのだ。



「でも失ってから気付くよりは、アンタはずっと立派なんじゃない。」


「………」


「それにお父さんはもう、あたしの“父親”なんかじゃないんだし、アンタ自身が向き合わないと。」

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