潮騒
ほうれん草とベーコンの和風パスタをテーブルへと並べる頃には、カオルちゃんの頬を染めていた涙もすっかり乾いていた。


未だ降りしきる雨の音に、珍しく心落ち着ける。



「成長期なんだから、しっかり食べなさい。」


あたしはビール片手に得意げに煙草を吹かす。


満腹中枢が刺激されると、人はそれで幸せを感じるらしいけれど。


フォークにパスタを絡める彼女を見つめていると、横顔が、随分あたしに似ているのだと気付かされる。


彼女は呟くように言った。



「進路のこととかでも、色々親とモメてたの。」


「………」


「部活のこととか、友達関係とか、恋愛とか、そういうの全部ぐちゃぐちゃになって。」


そんなことでか、と失礼ながら笑ってしまう。


けれどそれは、カオルちゃんなりの大きすぎる悩みなのだ。



「若いうちは悩むのも仕事みたいなもんでしょ。」


「…アンタって何かおばさんみたい。」


「はぁ?」


怒った後で、目が合って、そしたらまた笑ってしまった。


血の繋がりとは不思議なものだ。



「なーんて、あたしもそろそろちゃんと、将来のこととか考えないとね。」


彼女の言葉にあたしは頷く。


そうだね、ちゃんと考えなきゃならないね。

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