潮騒
「本当は俺、もうチェンの大体の居場所は掴めてんだ。」


「…え?」


「けど、今更どんな顔して対峙しろってんだよ。」


やっぱり自嘲気味な、その呟き。



「周りのやつらも躍起になってアイツの足取りを追ってるしさ、もう誰も止められねぇのかもしれねぇけど。」


不義理にし、裏切ったチェンさん。


周りの人間がそれを許せないのは当然のことだ。


マサキの吐き出した煙は風に消え、青すぎる空の色に滲みゆく。



「チェンだって幸せになりたかっただけだ、ってことくらい、わかってるんだ。」


「………」


「そして、その方法が身勝手だった、ってことも。」


だから、と彼は言う。



「俺、自分がどうしたいのかわかんねぇ。」


頼りないまでに、その言葉は弱々しい。


マサキの半そでから覗く黒い唐獅子は、物言わぬままに世界を睨みつけていた。


睨みつけているはずなのに、どこか悲しそうな瞳のまま。



「相手を許すことで自分自身が楽になれることもあるって、あたし聞いたことあるよ。」


あたしの言葉に、マサキは何も言わずに口元だけを緩めて見せた。


ひどく穏やかに降り注ぐ陽の光。


眩しすぎて、だから少しだけ怖くなる。

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