潮騒
「…え?」


ひどく驚いた。


でも彼は、まるで悟られまいとしているかのように、飄々とした態度のまま、



「だからぁ、離婚するかも、って。」


念を押すように、二度も言ったレン。


混乱して、だから上手く言葉が出ない。



「ほら、うちの両親って元からお互い仕事人間って感じだったじゃん?」


「…うん。」


「まぁ、俺から見れば、それはそれで上手く行ってると思ってたんだけどねぇ。」


けれど数年ぶりに実家に戻り、彼はその違和感を感じ取ったのだという。


すれ違うばかりのふたりの間に、会話らしい会話はない。


だから両親はもう、互いのことを同居人としてしか見ていないのではないか、と。


それでもレンは、夫婦の問題に口を挟まなかった。



「なのにさぁ、この前ふたりが俺に改まった顔して、そういうことになったから、って言うわけなんだよ。」


「………」


「で、アンタはもう成人してるんだから、好きにしない、ってさ。」


「…ちょっ、そんなの…」


戸惑うあたしに、けれども彼は、



「俺が実家に戻ったことで、逆に何かのバランスが崩れちゃったのかもしれねぇな。」


ビールを流してそう言った。


それが昔、レンが意味もなく荒れていた理由。

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