潮騒
レンの両親は幼い頃から帰りが遅く、ひとりっこの彼はそれなりに寂しい思いをしていた。


けれど中学に入る頃には、そんな家は友人たちの溜まり場同然のようになる。


彼が悪い連中とつるむようになるのなんて、時間の問題だった。


そして起きてしまった、あの事件。



「何なんだろうな、俺の人生って。」


ふうっ、と息を吐くように呟かれた、そんな台詞。



「俺の存在で周りが不幸になるんだとしたら、やってられねぇよな。」


レンが悪いわけではないのに。


なのにいつも、彼が苦しむ結果ばかりだ。



「仕事が生きがいだって言うなら、俺のことなんか産まなきゃ良かったのに。」


「………」


「ろくに子育てもしないで仕事ばっか選ぶんなら、子どもなんかはなっから作るべきじゃなかったのにな。」


だからやっぱり産んでくれなきゃ良かったのに。


そう言って網の上で焦げてしまった肉を見つめながら、彼は、



「今すぐってわけじゃないけど、どのみちおふくろが家を出るって話でまとまってるらしいから。」


「………」


「だから俺、どっちかを選ぶも良し、またひとりで暮らすのも良し、なんだってさ。」


泣き方を忘れてしまったのは、あたしだけではない。


レンもまた、だから無理をしてでも笑うのだ。


痛々しいまでの、その笑顔で。

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