潮騒
「レンはそれで良いの?」


あたしがやっと聞けた言葉は、だけども陳腐なものでしかない。


彼はまたふっと口元を緩め、



「夫婦の問題だから、別に口出すようなことでもねぇだろ。
それに、離婚したってふたりが俺の親であることには変わりねぇわけだし。」


「…でもっ…」


「大丈夫だよ、俺は。
ガキじゃねぇんだから、今更生活なんてどうにでもなるんだしさぁ。」


そういうことを言っているわけではないのに。


なのにレンが強がるから、あたしはまた何も言えなくなる。


本当は大丈夫なんかじゃないからこそ、こんな風にあたしを呼び出したくせに。



「まぁ、一応お前には報告しとこうかなぁ、って思ってさ。」


吹っ切れたような顔をしないでほしい。


終わったことのように言わないでほしいのに、



「美雪、このこと知ってんの?」


「いや、言ってねぇよ。
何か変に心配しそうじゃんか、アイツ。」


「………」


「それにわざわざアイツにまで言うほど、大したことでもねぇんだから。」


レンはやっぱり強がろうとする。


網の上にあった肉も野菜も、すべてが真っ黒い塊になってしまっていた。


焦げ付いた想いはいつも、剥がす時に痛みを帯びるね。

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