潮騒
個室風に仕切られた、少し洒落たレストラン。


相変わらずこの人は、素敵なお店をたくさん知っているなと思う。



「一ヶ月間の海外出張が終わってファンタジーに行ってみたら、キミが辞めていて驚かされたよ。」


「………」


「おまけに携帯も解約して、連絡なんて取れなくなってるし。」


すいません、としか、あたしは言えない。


それでも三坂さんはクスリと笑う。



「別に責めているわけじゃないんだ。
人にはそれぞれ事情というものがあるし、人生を決めるのは他人じゃないからね。」


女を買うようにはとても見えない、物腰柔らかな彼。


それでも、向かい合うこの人は、確かにあたしのお客だった。


大金を得た代償に、あたしは何を失ったろう。



「今は何をしているんだ?」


「…まだ、何もしていません。」


「そうか。
まぁ、人生を焦ってもろくなことにはならんからな。」


やっぱり不思議な人だと思う。


突然辞めた理由も聞かず、それを責めることすらしない。


ならば何故、ここに連れてこられたのだろうか。



「早く帰りたいというような顔をしているな。」


三坂さんはそんなあたしを見てから、



「じゃあ、本題に入ろうか。」

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