潮騒
コンビニに行くだけのつもりだったはずなのに、どうしてこういうことになってしまうのか。


家の近所をじっくり歩いたのなんて初めてだけど、でも、夜じゃちっともわからない。


歩きながら、不意にマサキは宙を仰いだ。



「すげぇな、星の数。」


「冬の夜空よりこっちの方が好きだよ、あたしは。」


もうすぐ夏になるし、そしたらもっと綺麗に見えるはずだ。


想像すると、ちょっとだけ楽しみになる。



「何か良いよな、夜の散歩も。」


「だね。」


「ネオンばっかじゃ疲れるけど、こういうのは悪くねぇし。」


じゃあ、今度また星でも見に行こうよ。


そう言ったあたしの言葉に、マサキはただ笑っていた。


月も星も、邪魔なものなんてなく、あたし達を照らしているかのよう。


本当にあの、ネオンの街で見るものと同じなのか、疑わしくさえなってしまう。


どれくらいそれを眺めていただろう、



「まぁ、とりあえず帰るか。」


宙に投げていた視線を戻したその時。


向こうの通りを歩く、人の影。


頼りないだけの街灯に照らされたその姿に、だけどもドクンと心臓が脈を打つ。


そんな、まさか――。



「…あれって、チェンさんじゃ…」

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