潮騒
瞬間、マサキは駆け出した。


戸惑って一瞬出遅れたけれど、でもあたしも足を踏み出す。



「おい、チェン!」


もしかしたら見間違いなのかもしれない。


けど、でも、1パーセントだとしても、本人である可能性だってあるのだから。


酒が抜けていないマサキは、さすがにいつものようには走れない。


それでも男の背を追った。



「待てよ、おい!」


なのに――。


角を曲がって、するとさすがは住宅街だ、結局あたし達は彼を見失った。



「くそっ!」


肩で息をしながら、マサキは舌打ちを混じらせる。


走った所為で、あたしは余計に思考がまとまらない。


それでも彼は、悔しそうにブロック塀に拳を突き立てて、



「間違いねぇよ、あれはチェンだ。」


「………」


「夜だし、後ろ姿だったけど、絶対に見間違うはずなんかねぇんだから。」


確かに、似ていた。


けれどそれは、マサキがチェンさんに固執しすぎているからじゃないのだろうか。


先ほどよりは冷静になった頭では、さすがにそう思えてくる。


だってこの街にいるはずなんてないのだから。



「まだ探せば近くにいるかもしれねぇ。」

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