潮騒
マサキは携帯を取り出し、誰かにコールする。


チェンを見たんだ、まだ近くにいるだろうから探してくれ、と。


あたしには、それが少しばかり恐ろしいことのように思えてきた。



「ねぇ、やっぱりもうやめようよ。」


けれど彼は、制するように言ったあたしに、



「うるせぇよ、そういう問題じゃねぇんだよ!」


「………」


「このままじゃダメなんだよ、俺もアイツも!」


苛立ちながら、マサキは再び壁に拳を突き立てた。


薄っすらと血の滲むそれが痛々しい。


ざらりとした風が肌を撫でて、どうにもならない想いだけが宙に舞い上がる。


月と星が煌めいていた。



「とにかく俺もまだちょっとこの辺を探してみるから。」


息を吐き、彼はこちらへと視線を移す。



「お前は帰ってろ。」


突き放すような口調だった。


そしてそのままマサキは、夜の闇へと消えていく。


あたしは悔しさの中で頭を抱え、その場に崩れるようにうずくまった。


ふと脳裏をよぎったのは、一緒に別の街に行こう、と言った三坂さんの言葉。


けれど、やっぱり答えなんて出なかった。


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