潮騒
事件が動いたのは、それから3日後のことだった。


新しく替えたばかりのあたしの携帯に、知らない番号からの着信が表示される。


恐る恐る通話ボタンを押した。



「…もしもし?」


すると電話口の向こうから聞こえた、男の声。



『久しぶりだね、ルカちゃん。』


まさか、そんなはずはないじゃない。


けれどその、どこか冷たく響く優しい口調は紛れもなく、



「…チェン、さん…?」


『ははっ、正解!』


笑い混じりの言葉に、だけどもあたしは戸惑うことしか出来ない。


あれほどマサキが必死で探していたのに見つからなかった彼が、まさか自分から、しかもあたしに電話をしてくるなんて。



『この前は見つかっちゃって、俺もさすがに焦ったよ。』


「………」


『それに何だか随分と探されてるみたいだし、久々にこの街に戻ってきたけど、過ごしにくいったらありゃしない。』


不貞腐れるような、どこか子供みたいな口調は、昔のチェンさんそのままだ。


だから本人であることには間違いないのだろうけど。



『ねぇ、やっぱりマサキは怒ってた?』


「当たり前じゃないですか!」


そう、と彼は少しばかり押し黙った後で、



『何だか虚しいもんだよね、人生ってさぁ。』

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