潮騒
自分で種を撒いておいて、どこか傍観者のようなその口調に、次第にあたしまでも苛立ってくる。


けれど必死で怒りを押し殺しながら、



「今、どこで何をやってるんですか?」


あたしの問いに、彼はクスリと笑った。



『俺のとこまで来て、熱い抱擁でもしてくれるの?』


「真面目に答えてください!」


『だからぁ、俺はいつだって大真面目だってば。』


はぐらかすのはお手の物だ。


それでも誤魔化されたくなんてなくて、あたしが唇を噛み締めた時、



『ねぇ、マサキと一緒に今夜9時に、“天国に一番近い場所”まで来てよ。』


「……え?」


『アイツに言えば伝わるはずだから。』


そこで待っててよ、と彼は言った。



「けどそんな約束、信じられるんですか?」


『信じるか信じないかは俺が判断することじゃないけど、でも、俺のこと探してるんならこんなチャンスは二度とないでしょ。』


「………」


『それに俺も、もう一度だけふたりの顔が見たいからさ。』


そして一方的に途切れた通話。


機械音だけが鳴り響く携帯を耳から放し、あたしは呆然と立ち尽くしていた。


チェンさんが自分からコンタクトを取ってきたことよりもずっと、最後の一言が気に掛かる。

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