潮騒
どれくらいの間、携帯を握り締めたままに立ち尽くしていただろう、



「おい、帰ったっつってんだから返事くらいしろよ。」


弾かれたように顔を上げると、帰宅したらしいマサキの姿にはっとした。


とにかく伝えなきゃ。



「今さっき、あたしの携帯にチェンさんから連絡が入って…」


「え?」


「それでよくわかんないけど、マサキとふたりで今夜9時に、“天国に一番近い場所”まで来てよ、って。」


説明にもならないほどの言葉でしか伝えられない。


けれどマサキは、瞬間、ひどく驚いた顔で、



「それ、本当なんだな?!」


あたしの肩口を強く掴んで揺すった。


おずおずと頷くと、彼は今度は神妙な顔に変わり、



「…アイツ、一体何を考えてんだよっ…」


本当に、わからない。


けど、でも一方で、逃せないチャンスであることも間違いないのだ。


きっとそれは、マサキだってわかっているのだろう、



「とにかく行くぞ。」


険しい表情を崩さないまま、あたしにそう促した。


指定された時間までは、あと2時間ちょっと。


場所がわかっているのだろうマサキは、急ぎあたしの腕を引いた。

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