潮騒
連れてこられた場所は、この街で一番高いビルの、屋上だった。


“天国に一番近い場所”――そのままの意味だ。


強い風が舞い上がり、肌寒さと不安に体が震えてしまう。


どれくらいふたりでそこで待っていただろうか、腕時計の針がちょうど夜の9時を指し示した時、扉が開いた。


チェンさんだった。



「さすが、早いんだねぇ。」


彼はあたし達を一瞥して笑うが、



「てめぇ、チェン!」


それに掴みかかったのはマサキだった。


裏切りの果てに別れたかつての親友との、こんな再会。



「ふざけんじゃねぇよ、何とか言え!」


けれどやっぱりチェンさんは、笑いを浮かべた顔を崩さない。



「まぁ、落ち着きなよ。
そんなにアツくなってちゃ、ろくな話も出来ないじゃん。」


彼は胸ぐらにあるマサキの手を払い除け、襟元を正した。


ダークスーツに黒のネクタイで正装しているチェンさんの格好はまるで、喪服のようだ。


足元で輝く街の明かりに、仕切るべきフェンスすらもない場所。



「ねぇ、それより覚えてる?」


「………」


「最近俺ね、マサキと遊んでた昔の夢ばかり見るんだ。」


「そんなの今、どうだって良いだろうが!」

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