潮騒
「それよりルカ、ちょっと疲れが出てる顔してるな。」


「アンタもでしょ。」


「俺はほら、女の子とセックスすれば癒されるから良いんだよ。」


嘘ばっかり。


でも、レンはいつも平気な顔で、色マクラであることを隠そうともせず、何でもないことみたいに笑う。


例え辛くとも、それを顔に出したりなんてしない男だ。



「昔のアンタはそんなんじゃなかったのにね。」


「………」


「レンって少なくともあの頃は、へらへら笑ったりなんかしなかったし、一匹狼気取ってたくせに。」


なのに、すっかりこんな世界に馴染んじゃって。


呟くあたしに、彼は手元のグラスを見つめるようにして視線を下げた。



「今の俺は気持ち悪い、って?」


「あたしも同じだけどね。」


「そうだな、同じだもんな。」


金のためにと体を売ってる、あたし達。


いっそ心の痛みさえも麻痺してくれたらと、いつも思う。



「償わなきゃダメなんだよな、過去のこと。」


レンのくゆらせる煙草の煙が、悲しくも揺れた。


過去のことか、と反すうさせるように宙を仰ぐと、煌びやかなシャンデリアが輝いている。


嘘だらけのあたし達が照らされていた。

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