潮騒
「じゃあレンは、胸張って今が幸せだとか言えるの?」


「…それ、は…」


「確かに心配してくれるのはありがたいけど、あたしもう少し自分で考えたいの。」


一体何を考えるというのだろうか。


考えれば考えるだけ、答えははっきりとしてくるだけなのに。


あたしの言葉にレンは肩をすくめるようにため息をひとつ落としてから、



「だってもうすぐじゃねぇかよ、お前の誕生日。」


誕生日?


頭の中で反すうさせてから、やっと思い出した。


もうすぐで、あたしは21になってしまう。



「このままの、宙ぶらりんみたいな状態で年取って、ホントにお前はそれで良いのかな、って思ってさ。」


やっぱり言葉が出なかった。


けれどレンはいつだってあたしに、お兄ちゃんみたいな口調で言う。



「そういう区切り、必要なんじゃねぇの?」


そうめんの皿に乗った氷が、徐々に溶けていく。


クーラーの冷たく乾いた風が肌を撫でて、ひんやりとしたそれが心の中にまでくすみを残す。


いつからこんなに息苦しかったろう。


不意に、泡になって消えた人魚姫の童話を思い出した。



「海、行きたいね。」


何気なく漏れた言葉に、レンはきょとん顔で首をかしげた。

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