潮騒
しばらく我が家でくつろいだレンは、帰る、と言った。


だからマンションの下まで送ってやると、



「ちょっと歩かない?」


なんて言われてしまう。


何でもレンの車は今、車検に出してるとかで、今日は電車で来たらしい。


だから駅まで一緒に行こう、ということなのだろうけど。


最近は用事でもなきゃ滅多に外に出ないため、こう暑いと死にそうだ。


蝉の声がうるさかった。



「何であたしがレンなんかと肩を並べて歩かなきゃなんないのか。」


さすがにグチグチと文句が漏れる。


ふたりしてもう夜の人間ではないというのに、やっぱりちょっと太陽の下はまだ似合わない。


ダラダラと歩いているうちに、駅前のアーケード街に差し掛かった。


と、その時、どこからか怒声が聞こえ、見ると、ヤクザのような風貌の男が、飲食店の店主らしき人とモメている姿。



「あれ、石橋組のヤツじゃね?」


レンは怪訝そうな様子で声を潜める。



「しかも多分、執行部の人間だろうし、あのオジサンも可哀想にねぇ。」


辺りにいた人々もまた、遠巻きにその様子を見守っていた。


石橋組――聞きたくない名前。



「あいつらのとこはマジで血生臭いことが好きっつーか、義理も人情もねぇようなのの集まりだから。」

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