潮騒
さっさと行こうぜ、と彼はあたしに促した。


灼熱の太陽を浴びたからなのか、頭がくらくらとする。


脳裏をよぎった残像は、やっぱりまたチェンさんが見せた最期の顔。


それでもレンに促されるままに歩いているうちに、駅に到着。


じゃあね、という言葉ひとつでレンと別れ、あたしは来た道をふらふらと戻る。


けれど、さすがにあのアーケード街を再び通る気にはなれなくて、だから一本奥まった道に入った。


遮るもののない日差しが直に降り注ぐ。


立ち止まり、ひたいにじんわりと滲んだ汗を拭おうとした、その時、



「…あっ…」


小汚いビルから出てきた、見覚えのある女性。


どくん、と心臓が脈を打った。


彼女もまた、立ち尽くしていたあたしに気付き、あっ、という顔をする。


けれどすぐにそれは、口角を持ち上げたものへと変わった。



「確か、一度だけ会ったことがあるわよね?」


話し掛けられるなんて思ってもみなかった。


いや、まさかこんな場所で出会うなんて。



「…スミレさん、ですよね?」


チェンさんが愛し、そして命を絶った原因でもある女性。


どうしてこの街にいるのか、やっぱり彼を騙していただけなのだろうか、と、色々な思考が矢継ぎ早に脳裏をよぎる。


あたしは震える息を吐いた。



「罪の意識とか、ないんですか?」

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