潮騒
「…罪の意識?」


「だってチェンさんが死んだのは、少なからずあなたの所為でしょ!」


あぁ、という顔。


そして彼女はクスリと笑い、



「チェンは馬鹿だった。」


だたそれだけよ、とスミレさんは切り捨てる。


その非道さに、あたしは悔しささえも混じり、唇を噛み締めた。


確かに馬鹿だったのかもしれないけれど、でも彼は、方法は悪かったとしても、愛した人のために生きようとしたのに。


踏みにじられた想いに憤りを覚えずにはいられない。



「最初からそれだけが目的でチェンさんに近付いて、陥れたんですか?」


「言葉を選びなさいよ。
こっちは何も頼んでないのに、勝手にあの子があたしを救いたいだなんて言い出しただけじゃない。」


「でも、利用してたんでしょ!」


「男を利用して何が悪いのかしら。」


ネオンに彩られた場所で見るよりずっと、真っ赤なその唇。



「人はコンプレックスを受け入れてもらえると簡単に心を開くんだもの、笑っちゃうわよね。」


嘲るように弧を描いた赤から、薄笑いが漏れた。


チェンさんの死さえも、まるで蔑まれているようで、だからあたしは拳を作った。


どうしてこんな人のために、と。



「いくら恨まれたところで、あたしを裁く法なんてあるかしら?」

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