潮騒
レンの客は絶えることがなく、ちょっと、とか言っておいて、あたしなんていつも放ったらかしにされている。


これで他の客と同じだけの指名料が取られるのだから、嫌にもなるけれど。



「レンさん、すぐに戻ってきますよ。」


ヘルプくんにまで気を使われてしまう始末だ。


別にあたしはレンなんかいなくとも、酒が飲めればそれで良いのだが。



「ルカさんって、レンさんの本カノでしょ?」


「は?
冗談じゃないよ。」


「でも、ルカさんのこと大切だって、レンさん前に言ってましたもん。」


それは単に、同じ痛みを共有しているから、というだけのことだ。


レンは誰も愛さないし、愛そうともしない。


全ては宮城くんへの償いのために、アイツは何もかもを捨ててしまった。



「レンにとって、お金以上に大切なものなんてこの世にはないわよ。」


嫌味ではなく、それは事実。


そんなことが少し物悲しくもあるけれど。



「じゃあ、ルカさん自身が一番大切だと思ってるものは?」


思わず言葉に詰まってしまう。


ふいに脳裏に浮かんだ人の顔を無理やりに振り払い、



「そんなもんない。」


と、あたしは、煙草を咥えた。


どうしてこんな時に、マサキことなんて思い出したのか。


きっとあたしは疲れ過ぎているに違いない。

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