潮騒
マサキはお兄ちゃんを殺した人の息子で、憎むべき相手、なのに求めてしまったあたし達に向けられた、こんな運命。


結局は、一緒にいることさえ許されなかったということか。


いや、あたし自身がそれから逃げただけなのかもしれないけれど。


レンと美雪はわざとらしくはしゃぎながら、窓を全開にし、サンルーフまで開ける。


冷たい夜風が一気に車内を駆け巡った、その時、



「うわっ、今のって流れ星?」


彼女は真上を指差し、目を丸くする。



「そんなわけねぇって、どうせ目の錯覚か何かだよ。」


「でもホントに見えたんだもん!」


「こんな汚い街の空で、しかも走ってる車の中からなんて、勘違い以外にねぇから。」


断言するレンに、頬を膨らませた美雪。


けれど、そんな希望ひとつない言葉が、どこか悲しく聞こえてしまう。


もう星に願いを掛けられるほどの子供ではないけれど、でも、だからこそ求めてしまうのかもしれない。



「じゃあ、もしもの話だけど、さっきのがホントに流れ星だったとしたら、レンはどんなことを願う?」


そんな美雪の言葉に彼は、途端にひどく寂しそうな目をし、



「そういうの、言ったら叶わなくなるらしいぞ。」


と、言葉を濁した。


当てもなく走り続ける車はまるで、あたし達そのものを表しているかのようだ。


レンの願いは3年前のあの日から、ただひとつで――。


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