潮騒
「レンが今まで毎月お金を置いてってくれてたの、お母さん知ってるくせに!」


「………」


「それでどれだけ助けられて、治療費が補てんされてたか!」


「………」


「なのに、どうしてそれを棚に上げて、レンのこと悪くばかり言うのよ!」


それでも引こうとはしなかった彼女に、美雪は唇を噛み締めてから、



「レンはお母さんが思ってるような人じゃないし、あの事件はレンの所為じゃない!」


と、その瞬間だった。


バチン、と乾いた音が響き、美雪の頬が赤くなる。



「そんな子を庇うなんて、許さないわよ!」


「………」


「この3年間、家族がどんな想いで過ごしてきたか、あなたが一番わかってるはずでしょう!」


あたしも、レンも、ゆず兄を失ってからのことを想像すれば、その辛さや苦しみは、痛いほどに理解出来た。


だから反論なんて出来なかった。


と、その時、



「静かにしなさい。」


それを遮るように、後ろからの声が響く。


振り向いた先には、白髪の混じる男性――美雪は彼を見て、お父さん、と呟いた。


彼はつかつかとこちらへと歩み寄ってきて、



「何度か会ったことがあるよね、真下廉人くん。」


「…はい。」


「キミには少し、話があるんだ。」

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