潮騒
驚いて声を上げようとしたお母さんをもう一度制し、彼は、



「我々がキミを恨んでいなかったと言えば嘘になるが、ただ、感謝もしているんだ。」


レンはゆっくりと顔を上げた。



「この3年、確かに色んな葛藤があったが、美雪が言うように、あの事件はキミだけが悪いわけではない。」


「………」


「喧嘩両成敗というわけではないが、心に傷を残してしまったのは、キミだって同じだろう?」


唇を噛み締めたレンの横顔は、今にも泣き出してしまいそうなものだった。


汗ばんだ手の平を一層強く握る。



「何よりあの金をキミが置いたとわかっていながら、我々はそれに手をつけた。
いらないと突き返すことも出来たのに、それを必要としてしまったんだ。」


「………」


「キミの年であの額を毎月稼ぎ続けることがどれほどのことなのかくらいわかる。」


「………」


「だから息子が目を覚ましたのは、我々だけの力ではないんだ。」


見上げたお父さんは、目尻にシワを刻みながら、口元を緩めた。



「互いにもう、恨み辛みはなしにしよう。」


レンは必死で歯を食いしばるけれど、堪え切れなくなった涙の一筋が零れ落ちた。


けれど、それがぼやけてよく見えなかったのは、きっとあたしも泣いていたからだろう。



「今日はこういう状態だから、落ち着いたらまた来てくれるかい?」

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