潮騒
宮城くんはまだ目を覚ましたばかりで、記憶の混乱や事実認識力の欠如などの異常はあるものの、それはゆっくりと改善させていくことが出来るそうだ。


諸々の検査や、他にも、心身のリハビリなどもあるらしい。


どうして自分がここにいて、長い間眠っていたのか、どれほどの時間が経っていたのかと、それを彼が受け入れるのは、きっと簡単なことではないだろうから。


お父さんのひどく穏やかな喋り方は、美雪と同じ。


レンは何度も頷きながらも、脱力するようにへなへなとその場に崩れ落ち、



「生きててくれて良かった…」


そればかりを繰り返した。


あたしも、美雪も、もちろんレンも、ただ零れ続ける安堵と喜びの涙を、拭うことすら出来なかった。



「息子が荒れていたあの頃、家族はもう壊れる寸前だった。」


「………」


「でも、皮肉なことに、キミとの事件が起きてからやっと、わたしは息子がいかに愛しいものだったかと気付かされたんだ。」


「………」


「だからわたしはもうキミを恨もうとは思わないし、キミもこれ以上自分を責めないでくれ。」


そしてお父さんは、



「今日は来てくれてありがとう。」


そう言い残し、あたし達の前から立ち去った。


レンが、ヘタクソな泣き方でしゃくり上げている。


手首に残る古傷が、やっと浄化された気がした。



「帰ろうよ、レン。」


人は生きて、その道を模索し続けなければならない。


ねぇ、少しだけ報われた気がするね。

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