潮騒
それから少しして、宮城くんの容体が安定したと報せを受けた。


残念ながら若干の脳障害は残ってしまったようだけれど、でもお父さんは、



「これが終わりでもあり、また新たな始まりでもある。」


と、言っていたそうだ。


目を覚ましたことは希望だと、美雪も言っていたけれど。


レンが宮城くんと会うことはまだ先になりそうだが、でも生きている限り時間は無限にあると、彼は笑っていた。


きっとそれでいいのだと思う。


人の命は奇跡であり、たくさんの可能性を秘めているのだから。


あれからレンは、無事に介護系の資格を取れるスクールに入れたようで、今は目下勉強中らしい。


あたしはてっきり老人介護なのだと思っていたが、どうやらリハビリ介護のナントカらしく、とにかくまぁ、それは宮城くんのためでもあるのだとか。



「今度は背負うとかじゃなくて、考えた結果、自分がやりたいことがそれだった。」


と、彼は誇らしげにあたしに話して聞かせてくれた。


その笑った顔は、まるで幼い昔に戻ったように、屈託なく穏やかなものだった。


レンは自分で選んだ道を、自分で決めて、自分の足で歩き始めたのだ。


やっと、ちゃんと。



「マズイ酒飲んで、楽しくもないのに笑って、金のためだと割り切って客と寝るような毎日に比べたら、今の方がずっといいからさ。」


あたしもまた、そんないとこが誇らしかった。


気付けば季節は秋を迎えていた。

< 357 / 409 >

この作品をシェア

pagetop