潮騒
はたして本当にそうなのだろうか。


けれど彼にとって、あたしの存在は邪魔にしかならないからこそ、あれからずっと、必死で自分にそう言い聞かせ続けていた。



「マサキは石橋組長を殺すつもりらしいし、そんな人とあたしが一緒にいること、レンだって快くは思わないでしょ。」


「………」


「それにもう、今はどこで何やってるのかさえわかんないんだし。」


「………」


「大体、今まで反対してたくせに今度はそういうこと言ってるレン、意味分かんないから。」


言い訳染みていると、自分でも思う。


べらべらと言葉を並び立てるあたしに彼は、ため息を混じらせながら、



「お前さ、ホントにそれでいいの?」


サングラス越しではその表情は読み取れないが、でも眉間に深いしわが刻まれている。



「だって、仮にも好きだったヤツが人殺しになろうとしてんのに、関係ないって切り捨てることが出来ないなら、お前が止めてやれよ。」


「………」


「じゃなきゃアイツ、石橋に傷ひとつつけられないまま犬死するだけだぜ?」


それはいつだったかの、スミレさんの言葉と同じ。


一個人の力では、太刀打ちすることすら出来やしない。


それにもしもマサキが石橋組長を仕留めたとしても、その後どこに逃げようとも、無事に暮らせる保証はないのだから。


チェンさんのために、彼は死ぬつもりなのだろう。


だからマサキは、あたしの未来を案じ、別の道を歩むことを決めたのだ。



「マサキの決意を知ってるからこそ、あたしにはもう、見守ることしか出来ないんじゃん!」

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