潮騒
気付けば声を荒げていた。


息を乱すあたしに、それでもレンは表情ひとつ変えないまま、



「そういうこと理由にして逃げて、あとで後悔すんのはお前だぞ?」


「………」


「死にに行くってヤツの意志を尊重してやることが素晴らしいだなんて、俺には到底思えねぇけどな。」


「………」


「だって復讐することが立派だなんて、馬鹿げた考えだろ。」


そう言い切った彼は、咥えていた煙草の煙を長く吐き出した。


確かにレンの言うことは間違っていないし、むしろ正しいのだと思う。



「でも、そんなこと言ったって…」


そんなこと言ったってもう、あたしにはどうすることも出来ないのだから。


レンはまたため息を吐き出し、



「俺だって一応、クール・ジョーカーのナンバーワンだった男だからねぇ。」


と、言ってから、ポケットから一枚の紙切れを取り出した。



「氷室正輝が今いるであろう場所、目星ついてんだけど。」


「…え?」


「情報屋のことは情報屋に聞け、って言うけど、マジで苦労したっつの。」


レンの考えていることがわからなくて、何より思考が追い付かない。


彼はその紙切れを顔の前でひらひらとさせ、



「まぁ、ルカに覚悟がねぇなら、これは見せられねぇけどな。」

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