潮騒

夢見た幻影

レンと地元に戻ったその足で、駅に向かい、銀行でお金を降ろしてから、そのまま特急電車に飛び乗った。


一応行ってみた、マサキのアパートや事務所も、当然だけれどもぬけの殻で、携帯だって解約されていたから。


レンがくれた紙に書かれている住所はここからかなり離れていて、電車で行っても結構な距離だ。


いつも人知れずバッグに忍ばせているお守りは、マサキと一緒に初詣に行った時に買ってもらったもの。


それを握り締め、どうか間に合いますようにと祈った。


電車を降りる頃には夕方になっていて、到着した駅でタクシーを拾い、紙に書かれた住所を告げた。


運転手さんには「乗り換えの電車を待った方が早く着くと思いますよ。」と言われたが、「良いから行ってください!」と先に財布から抜いた金を押し付けた。


走る車内、窓から眺めた外は繁華街で、でもうちの地元よりは少しだけさびれているような印象だった。


それでも、空気の匂いにさほどの違いはないように感じる。


マサキがここを選んだ理由が、少しだけどわかった気がした。


手元のメモに視線を落とし、緊張気味に息を吐くあたしに運転手さんは、



「お客さん、ホントにそこなんですか?」


「…え?」


「いや、もしかしたら間違ってるんじゃないかなぁと思ってね。」


「…どういうことですか?」


「だってこう言っちゃ何ですけど、その地区ってちょっと危なくてここいらじゃ有名で、お客さんみたいな若い女の人は理由もなければ近付きたがらないところで。」


と、運転手さんは遠慮がちに、ルームミラー越しにあたしを見たが、



「じゃあ、多分そこで合ってるはずです。」


身を隠す場所としてはきっと最適だろう。


あたしはもう一度運転手さんに、「良いからお願いします。」と告げた。

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