潮騒
蛇のようなタトゥーの入った彼は、ヨウさんというらしく、この店の店長だそうだ。


マサキとの関係はわからないが、



「アイツよくここの二階で寝泊まりしてるんだ。」


と、教えてくれた。


ヨウさんは何を思ったのか、いきなり「もう閉店だ!」と言い出して、ブーイングが起きる中、「俺はうるせぇのが嫌いなんだ。」と店にいた連中を追い出していた。


で、急にこの人とふたりきりにされてしまう。


カウンターに座らされたあたしと、新聞を広げたっきり一言も喋ろうとしないヨウさん。


重い沈黙の中、言葉を探すべきかと悩んでいたあたしに彼は、



「別にそんな警戒しなくても、アンタを取って喰おうなんて思わねぇから。」


こちらを見ることもなく吐き捨てられた台詞。



「ただ、俺はマサキのことが嫌いなんだ。」


「…嫌い?」


「ああいう破滅型の馬鹿を見てるとイラつくし、人の忠告は散々無視しやがって、こっちは迷惑ばっか掛けられるし。」


「………」


「だからアンタなら連れ帰ってくれるかなぁ、と思ってな。」


やっぱり感情が読み取れない喋り方をする人だ。


彼は新聞を読んでいた視線をこちらに移し、



「住み着かれても困るし、ここで死なれちゃ後片付けが面倒だ。」


心底面倒くさそうに、煙草の煙が吐き出された。


良い人には見えないが、でも悪い人というわけでもなさそうなので、あたしは少しだけ胸を撫で下ろした。

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