潮騒

「チェンも死んだし、もうこれ以上昔の仲間にくだらねぇ理由で先立たれるのは御免だからな。」


「………」


「どいつもこいつも死に急ぎ過ぎなんだ。」


その時初めてヨウさんは、少し寂しそうな顔をして、



「俺は葬式が嫌いなんだよ。」


と、長く煙を吐き出した。


ヨウさんがわざわざ店を閉めてまでこんな話をしてくれた理由が、何となくだけどわかった気がした。



「でも、今更あの人があたしの話を聞いてくれるかどうかなんて…」


「誰の話にも耳を傾けられなくなったらアイツはもう救いようのねぇ大馬鹿だしよ、自滅すんのは時間の問題だろうから、放っとけ。」


ヨウさんが吐き捨てたように言って、煙草を灰皿へとなじった、その時。


キィと錆びた蝶つがいの音が鳴り、振り返るとそこには、



「ヨウさん、またいきなり閉店なんかにして…」


目が合って、数メートルの距離で立ち尽くす。


彼はあたしに気付き、驚くままに目を見開いて、



「何でルカがここにいんだよ！」


マサキは叫ぶようにそう言って、こちらに歩み寄ってきたかと思うと、突然にあたしの腕を引いた。



「今すぐ帰れよ、もうお前には関係ねぇって言ったはずだろ！」


「黙れよ、クソガキ。」


けれど、それを制したのは、ヨウさんの低すぎる声。


マサキはあからさまに舌打ちを吐き捨てるが、



「俺の店の俺の客に、てめぇが帰れとか言う筋合いねぇだろ。」