潮騒
ヨウさんは煙草の箱からその一本を摘み上げ、指でトントンともてあそぶ。


怒鳴り散らすよりずっと、静かに睨み上げるその瞳の方が怖い。



「わざわざ居場所まで調べて、てめぇのためにこんなとこまで来てくれた女に、そういう態度はねぇだろう?」


「………」


「どういう関係なのかは知らねぇけど、てめぇが後生大事そうに持ってるあれ、同じもんがその子のバッグから覗いてたからな。」


お守りのことだ。


途端にマサキはバツが悪そうな顔になるが、それでもヨウさんは、



「この世に未練たらったらのくせに、偉そうに死のうとしやがってよ、だからてめぇはガキだって何度も言ってんだ。」


「………」


「ひとりでも自分のために泣いてくれるヤツがいるうちは、人は死ぬべきじゃねぇんだから。」


マサキは唇を噛み締め、掴んでいたあたしの腕を離す。


手首の痛みから解放されて、やっと、会えたことが現実なんだと気付かされた。


それでも彼は、あたしの方を見ようとしない。


ヨウさんはそんなマサキの態度に、



「面倒くせぇガキだなぁ、おい。」


と、イラついたように息を吐き、



「その子とちゃんと話せよ。」


「………」


「てめぇのくだらねぇ意地の所為で誰が一番傷つくのか、考えたことねぇだろう?」


吐き捨てるようにそう言った。

< 368 / 409 >

この作品をシェア

pagetop