潮騒
マサキは舌打ち混じりに、



「何の用だよ?」


と、怒りのこもった口調で突き放すように言って、やっぱりこっちを見ようとはしてくれない。


あたしが顔を俯かせると、



「何でわかんねぇんだよ、俺のことなんか忘れろよ!」


「………」


「うぜぇんだよ!」


ガッ、と傍にあった椅子が蹴り飛ばされた。


びくりと肩を上げるあたしに、それでも彼は、



「お前まで巻き込みたくねぇってあの時言ったろ!」


「ねぇ…」


「こんなんじゃ何の意味もねぇだろ、ふざけんなよ!」


「ねぇ、聞いて!」


それでもマサキは聞く気はないとばかりに、今度はテーブルにあったコップをなぎ倒した。


ガシャーン、と割れたガラス片が床に散乱する。



「聞くことなんか何もねぇし、お前の顔なんか見たくねぇっつってんだろ!」


彼はかたくななまでに、そう言い続ける。


けれどあたしだって、今度はもう引く気はない。



「あたし、マサキを人殺しになんてさせないから。」

< 369 / 409 >

この作品をシェア

pagetop