潮騒
彼はハッと乾いた笑いを浮かべ、片手で顔を覆ってしまう。



「レンがね、憎しみと復讐心はイコールにしたらダメなんだって言ってたの。」


「………」


「あたし、もしもマサキに何かあったら悔やんでも悔やみ切れないし、やっぱりこんなの間違ってるって思うんだ。」


「だとしても、もう引き返す道なんてねぇよ。」


ぼそりとかすれそうな声で放たれた、その言葉。



「チェンは利用されて、最期は自分で命を絶つことしか選べなかったんだぞ!
そんなままで終わらせられっかよ!」


「………」


「だからもう邪魔すんなっつってんだろうが!」


苦しそうで、悲しそうで、寂しそうで。


マサキはまるで、そんな自分自身を必死で振り払っているようにも見える。



「あたしが邪魔なら殺してでも前に進めば良いし、覚悟ってそういうもんなんでしょ?」


僅かに彼の瞳が揺れた。


あたしは真っ直ぐにそんなマサキを見上げて、



「迎えに来たから、もう帰ろうよ。」


彼は唇を噛み締める。


顔を俯かせ、肩を震わせ、まるで泣いているみたいだった。


恐る恐るその体に触れようとした瞬間、



「触んな!」


マサキはあたしの手を渾身の力で振り払った。


刹那、その勢いと力の強さに、あたしは傍の壁に叩きつけられ、ガッ、と肩口を強打した。


鈍い音と共に激しい痛みが全身を貫く。

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