潮騒
一瞬、何が起きたのか理解できず、呼吸さえもままならなかった。


それでも痛みを噛み殺し、体を起こす。



「ちゃんとこっち見てよ!」


「………」


「あたしには何しても良いから、お願い、そういう顔しないで!」


今のマサキは、まるでいつかのあたしのようだ。


虚ろな瞳を揺らしながら、なのにどこか泣いているみたいだった。


彼はあたしから目を逸らし、また悔しそうに唇を噛み締める。



「てめぇ、いい加減にしろよ。」


さすがにヨウさんが口を挟むけれど、



「…俺、もうわけわかんねぇよ…」


聞き取れないほどの呟きを吐き出した後、マサキはその場に崩れ落ちた。


彼は瞳を持ち上げ、あたしを見て、そして縋るようにこちらへと腕を伸ばす。


きつく、伝わる震え。



「…マサ、キ…」


もしかしたら、マサキは泣いているのかもしれない。


けれどあたしは何も言えなくて、その背をさすることしか出来なかった。


絶望して、まるで今にも死んでしまいそうだった彼の冷たすぎる体を、さすってあたためてあげることしか出来ない。


抱き合う格好になってやっと、マサキの体がいつの間にかこんなにも細くなっていたのだと知った。


それがひどく悲しかった。

< 371 / 409 >

この作品をシェア

pagetop