潮騒
それから、血も涙もないようなヨウさんは、マサキの腹を蹴り飛ばした。


ぎょっとしたあたしをよそに、彼はうな垂れるマサキを抱え上げ、二階の一室へと運んだ。


暗くて狭く、圧迫感に息苦しさを覚えてしまうような場所で、マサキはそこにあるソファーへと投げられた。



「当分寝てねぇらしいから、この分じゃ気失ったまま起きねぇだろうなぁ。」


ヨウさんは他人事のような口調でそう言った。


優しいのかひどい人なのかわからず戸惑うあたしをよそに、彼はやれやれと煙草を咥え、そこにあった引き出しを探った。


数台の携帯電話、ナイフ、拳銃、スタンガンまでも。


それはきっと本物だろう。



「ったく、ろくなもん入ってねぇんだから。」


まるで映画に出てくる武器商人のようだと思った。


けれどそれはすべて、石橋組長を狙うためのものだ。


マサキが虎視眈々とこんなものを準備している姿を想像すれば、やっぱり悲しくなってしまう。



「あ、こっちはいらねぇか。」


先ほどの引き出しの一段下を開けた彼は、そこにあったポーチを持ち上げた。


その瞬間、開いていたチャックの隙間から零れ落ちたのは、お菓子のような色をした錠剤だった。


見たことがないわけではなかった。


だからそれがビタミン剤なんかじゃないことはわかった。



「クスリなんかに頼りやがって、だからガキなんだよ。」


「………」


「逃げたくなる気持ちもわかるけど、現実を見つめなきゃ何も変わらねぇんだ。」

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