潮騒
ヨウさんは憎々しげにそう吐き捨て、床に散らばったそれを足で踏みにじった。


オレンジ色が、粉々になる。



「…マサキはどうしてこんなっ…」


信じられなかった。


ソファーで微かに寝息を立てるマサキは、うずくまるように眠っている。



「コイツ昔から、たまにこういうのに手出してたんだ。」


「…昔から?」


「エンペラーってチームに入ってからは少しは更正したと思ってたけど、最近またどこで手に入れたんだか、隠れて喰ってやがるしよ。」


ヨウさんは、ため息混じりに煙草の煙を吐き出した。


彼はまるでマサキの保護者のように肩をすくめ、



「だからクソガキの子守なんて嫌なんだ。」


と、心底面倒くさそうな顔をした。



「こんな風に自分を追い込んでまでする復讐に、何の意味があるんだかな。」


「………」


「コイツは人殺しなんて出来るような器じゃねぇのによ。」


ヨウさんの手の甲にある、切り傷のようなもの。


彼は自らのそれを見つめながら、目を伏せる。



「そういうもん背負うのは俺だけで十分だ。」


聞き取れないほどかすれた声だった。


この人の過去を聞こうとは思わないけれど、でもその寂しそうな瞳がすべてを物語っている気がした。

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