潮騒
ガタッ、と音がして、びくりと驚き目を覚ましたのは、あれからどれくらいが経った頃だったろうか。


重い体を起こし、見るとあたしはソファーで寝かされていたようで、代わりにマサキが小窓の下に座り込んで、煙草の煙を吹かしていた。



「…あ、えっと…」


「さっきは悪かったよ。」


戸惑うあたしに、相変わらずこちらを見ようとしない彼は、ぼそりとそう言った。


マサキの傍らに置いてある灰皿は、すでにいっぱいになっている。



「ずっとイラついててさ、おまけにルカがいきなり現れるし、何で全部が思い通りにならねぇんだろう、って腹立って。」


少し言い訳染みた言葉を並べ立てたマサキは、足元を一瞥し、



「クスリのことも、聞いたんだろ?」


「………」


「ダサすぎるし、お前にだけは知られたくなかったけど。」


「………」


「どうせヨウさんの仕業だろうけど、こうしてわざわざ床で粉々にされてんだから、嫌味だよな。」


自嘲気味に口元を緩めた彼は、やっぱり疲弊した顔をしていた。


片膝を立てて壁に背をつけ床に腰を下ろしているマサキと、ソファーに座っているあたし。


狭い部屋の中、それでもあたし達の間にある距離が縮まることはない。


目付きはまるで別人のよう。


小窓から差し込む街の明かりが、一層マサキの表情に影を落とす。


彼は短くなった煙草を灰皿へとなじり、



「まぁ、これでわかってくれたとは思うけど、お前はもう俺に関わってねぇで、あの街に帰れよ。」

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