潮騒
レンがいてくれるなら、あたしの世界はそれなりにちゃんと回ってくれる。


だからもしも神様なんてものがいるのだとしても、他のことなんて望んだりはしない。


例え、レンと一緒にラーメン屋を出た帰り道で、マサキがどこかの女とホテル街に消えていくところを目撃しても。


レンがいればそれで良い。



「あ、ルカちんついでに今日泊めてー!」


「嫌よ、絶対に嫌!」


「だって俺んち遠いじゃんかぁ!」


「知らないわよ、引っ越せば良い話でしょ。」


「冷たいこと言うヤツだなぁ。」


と、抱き付かれ、蹴り飛ばしてやった。


いくらこんな時間とはいえ、街のど真ん中でおちゃらけやがって、また変な噂を立てられたらどうしてくれるんだ。


それでも、いつもと何も変わらない日常だ。


あたし達はぎゃあぎゃあと騒ぎながらタクシーを拾い、一緒に車に乗り込んだ。


レンは煙草の煙をくゆらせながら、一息ついたようにして、



「まぁ、また何かあったら俺に言えよ。」


そう一言だけぽつりと漏らした。


あたしには愚痴のひとつも零さないくせに、随分と甘やかされているなと思う。


大丈夫だよ、とだけ返し、窓の外へと視線を投げた。


今日も眠らないこの街は、明け方も近いこんな時間なのに、煌々とネオンの色が輝いている。

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