潮騒
「あの人のことはまぁ、気にする必要はねぇから。」


未だ呆けていたあたしに、ヨウさんはそう声を掛ける。



「それより今はマサキのことだ。」


「…あ、はい。」


「いつまでもあんなまま自分の殻に閉じこもってるのが良いことだとは思えねぇし、どうすっかねぇ。」


まぁ、とりあえず飯でも食わすか。


と、彼は肩をすくめ、面倒くさそうな様子で冷蔵庫に手を掛けた。


その時、カタッ、と音がして、振り向くとそこには、佇むマサキの姿があった。



「何だ、起きてたのか。」


「………」


「ったく、死んだ人間みたいな目しやがって、そんなんで俺のこと睨んでも怖くねぇんだよ、馬鹿が。」


ヨウさんは相も変わらず口が悪い。


その言葉に余計に不貞腐れたような顔をしたマサキは、無言のままに舌打ちを吐き捨てる。



「てめぇが今、何をどう思ってるのかなんて知らねぇし、そんなもんに興味もねぇけど、これ以上周りに心配掛けるようなことだけはすんじゃねぇ。」


「………」


「いくら馬鹿でクソガキのてめぇでも、死なれちゃこっちは気分が悪くなるんだから。」


ヨウさんの言葉は、優しさであり厳しさでもあるのだと思う。


きっとそれがわかっているのだろう、マサキはやっぱりバツが悪そうな顔をしたままだ。



「わかったらさっさと顔洗ってこい。」

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