潮騒
決して自殺することを肯定しているわけではないし、自らで命を絶つことが美談だとは思えない。


けれど、残された者が彼の意思を捻じ曲げてしまってはダメだ。



「だから、マサキだってもうチェンさんへの気持ちにケリをつけなきゃいけないんだよ!」


ヨウさんは、マサキに殺人なんてさせないためにこんな事件が起きたのだろう、と言っていたけれど。


あたしだってそう思う。


散々苦しんで、決意した先にある答えが、正しいものだとは限らないのだから。



「きっと、これで良かったんだよ。」


あたしがそう言った時、マサキは顔を俯かせたままに、肩を震わせた。


いつの間にか窓を打ち始めた雨音が、物悲しくも部屋を染める。


何もかもが洗い流されることを願わずにはいられない。



「ねぇ、帰ろうよ。」


あたしはマサキに手を差し伸べた。



「一緒に帰って、美味しいものいっぱい食べて、それからふたりでこれからのことちゃんと考えよう?」


「ルカ…」


「あたしの部屋なら空いてるしさ、こんなとこのソファーで寝るよりはずっと良いでしょ。」


持ち上げられた彼の瞳は弱々しくて、まるで今にも泣き出してしまいそうなほどだったけど。


でもやっと、マサキが自らで作った殻が破られたような気がしたから。


差し出したあたしの手に、彼の少し迷うような指先が触れる。


自分では笑っていたつもりだったあたしなのに、気付けば図らずも、涙が頬を伝っていた。


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