潮騒
それからどれだけの時間が過ぎただろう、ヨウさんが裏口から戻ってきた。


「すげぇ雨で嫌になる。」と愚痴を零す彼の手には何故か、米を買いに行ったはずなのに、缶ビールが握られていた。



「あ、そういや飯作るって俺言ったんだっけ?」


すっとぼけたことを言った彼を遮りマサキは、



「それよりヨウさん、ちょっと話したいことがあるんですけど。」


と、少し言葉を選ぶような顔で言った。



「…話?」


「俺、これからのこと考えました。
つーか、前から思ってたことなんですけど。」


「何だよ、言えって。」


神妙なその瞳に、あたしもヨウさんも首をかしげる。


が、続きを言う前に、マサキが気まずそうにこちらを一瞥するので、



「あたし二階に行ってるから。」


触れてはダメなのだろうと、直感で思った。


本当はそこにいたかったけれど、でも今はマサキのことを信じようと思う。


マサキの決意なんて知らなかったから――。


扉を締めて、二階へと続く階段を昇る。


ソファーに腰を下ろすと弛緩した体はひどい疲労を感じ、あたしはそのまま睡魔に身を任せるようにして、目を瞑った。


今は少しだけ、この雨音が心地いい。

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