潮騒
マサキの車に乗り込むと、ひどく懐かしい香りがする。


少しの不安は残るものの、これから一緒に地元に帰れるのだと思うと、それよりも嬉しさが勝った。


とりあえずレンにメールを入れておこうと携帯を開いた瞬間、何の偶然なのか、彼からのそれを受信する音が鳴る。



「あ!」


メールの画面を見て、ひどく驚いた自分がいた。


どうして忘れていたのだろう。



「今日、あたし誕生日だ…」


「…マジでか?」


レンからの、ハッピーバースデーというデコレーションされたメール。


こんな朝早くから、と思うより先に、顔がほころんでしまう。


マサキは助手席で携帯を握ったままのあたしを一瞥し、



「そういうことはもっと早く言っとけよ。」


と、眉を寄せる。



「じゃあまぁ、どうせ時間はいくらでもあるんだし、寄り道しながら帰るか。」


「…寄り道?」


「遠出しようって前に言ったままだったし、誕生日だから特別にな。」


今日はどうやら嬉しいことだらけらしい。


マサキと一緒に、しかも小旅行をしながら帰るのだ、あたしが喜んでしまうのも当然だった。


21歳は、きっと楽しいことだらけになると、珍しく浮かれたことばかり考えていたから。

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