潮騒
高速ではなく国道を通って帰ることを選んだマサキと、陽が昇ってから道沿いにあった喫茶店に入り、モーニングを食べた。


また車を走らせ、少し大きな街では秋服を選んだ。


「この際だから行きたいとこは全部言え。」というマサキに、「こんなのプータローの生活じゃないよね。」なんて笑った。



「まぁ、今日はあたし“特別”だから良いよね?」


今まで自分の誕生日で、こんなにも浮かれていたことなんてなかったかもしれない。


それでも、嬉しさから偉そうに言ったあたしをマサキは、



「帰ったら貧乏生活の始まりだな。」


と、鼻で笑う。


地元に戻ったら、ちゃんと働こうと思う。


今度はレンみたいに、自分のために好きな仕事を探そう、と。



「お金がなくなったら、また稼ぐもん。」


「雇ってくれるとこがあると良いけどな。」


「うるさいよ!」


一緒にいて、やっとちゃんと、心の底から楽しいと思えた。


もう、何かを忘れ去るためにふたりで過ごすわけじゃないから。


今日からが始まりなんだとすれば、とことん景気良くいきたい。



「てか、それよりあのジェラート食べたい!」


「おいおい、次は食いもんかよ。」


「良いから、早く!」


「わーかったから、走るなって。」


それでもあたしが知らない街で迷子にならなかったのは、ずっとマサキが手を繋いでいてくれたから。


マサキが楽しそうに笑っているから、あたしは余計に嬉しかったの。

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