潮騒
翌日、普通に出勤してロッカーを開けた時、掛けておいたドレスの全てがビリビリに破かれていた。


またかよ、と、さすがにげんなりさせられるけれど。


以前にもこんなことはあったし、いちいち気にしてなんていられない。


それにドレスを持ち帰らなかった不用心なあたしにも問題はあったのだろうからと、その全てを掴み上げ、ゴミ箱に投げ捨てた。


店にある衣装を借りれば良いだけだが、もちろんレンタル代は引かれてしまう。


肩をすくめるあたしの後ろで、古株のキャストがくすくすと笑っている。


そこでふとロッカーの中に視線を戻すと、大量の紙の束。


まるで投票ボックスに詰め込まれた用紙みたいに、それには一枚一枚あたしへの文句と悪口が羅列されていた。




【マクラで稼いだ金をレンに貢ぐ女】

【ブス!】

【整形代は総額いくら?】

【キモイんだよ!】




今時、小学生でもこんな低レベルなことなんてしないだろうに。


と、いうか、こういう労力があるのなら、客に営業のひとつでもすれば良いものを。


だからあんたらはいつまで経ってもあたしを追い越せないんだっつーの。


なんてことは、もちろん面倒なので声に出しては言わないけれど。


まったく、これだからレンのお遊びに付き合うとろくなことにはならないんだ。



「泣いて謝ってみろよ!」


「店辞めろって感じ!」


わざとのように、背中に浴びせられるそんな台詞。


別にこんなことで悲しむほどあたしはまともな人間じゃないし、第一マクラだからって誰にも迷惑なんて掛けてはいないのに。


紙の束も一緒にゴミ箱に押し込め、舌打ちだけを吐き捨てた。

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