潮騒
「お前といたら破産しそうだ。」


そう肩をすくめたマサキは、



「何度も言うけど“特別”なのは今日だけだからな?」


と、念を押すように言ってから、あたしの膝の上に紙袋を乗せた。


何だろうかと首をかしげていると、「開けるのは帰ってからな?」とマサキは言った。


それでも気になったので、無視して箱の中身を取り出すと、



「おいこら、帰ってからだっつったろうが。」


マサキはバツが悪そうな顔で煙草を咥えた。


箱の中身はネックレスだった。


驚いて、マサキとそれを交互に見ながら目をぱちくりとさせていると、



「安物だけどまぁ、それ誕生日の祝いだから。」


照れた顔を隠すように口を尖らせる横顔に、あたしは笑い転げてしまう。


キャバだった頃に貰った大きな花束やブランド物よりずっと、嬉しかったから。


知らない間にマサキがこんなものを買っていたなんて、思いもしなかったから、



「うん、すごい嬉しい。」


そんな“特別”に、心の底から喜べた。


小ぶりなハートのモチーフのついた、ネックレス。



「大事にする!」


あたしが満面の笑みで言った言葉にマサキは、ふっと笑ってまた、少し寂しそうな顔をした。


晴れ渡った昼下がりのことだった。

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