潮騒
「それ以上飲んだらぶっ倒れるぞ。」


「だってこのケーキも食べたいじゃん!」


「明日にしろよ、明日に。
ワインもケーキも逃げねぇんだから、今日はやめとけ。」


マサキに制され、渋々あたしは頷いた。


急にすることもなくなり、睡魔に襲われたので、ふらふらとした足取りのままに寝室の扉を開けると、



「今度は寝るのかよ。」


呆れ口調のマサキの声が背中から響くが、気にせずあたしはベッドにダイブした。


今日の日の楽しかった余韻に浸りながら、このまま気持ち良く眠りに落ちたかったのに、



「21になったくせに、相変わらず腹出して寝ようとすんな。」


ぎしり、とベッドが軋む。


煙草と酒の混じる味のキスは、最初のあの時と同じだった。


懐かしさと嬉しさ、そして愛しさと少しの切なさが込み上げて来て、



「誕生日おめでとう。」


そう言って笑ったマサキの体を引き寄せ、抱き付いた。


もう二度と消えてほしくなくて、今目の前に確かにいることを確認したくて、まわした腕に力を込める。



「甘えすぎだっつーの。」


また笑ったマサキはついばむようにあたしの唇を奪う。


言い知れぬぬくもりにひどく安堵させられて、触れられる度に愛しさばかりが増していく。


マサキの腕の中にいられる幸せは、他の何にも代えられないものなのだと、今更気付いたから。


もうすぐ魔法が解けてしまうね――。

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