潮騒
眠れば完璧に魔法が解けてしまうことはわかっていた。


別れが待っているからこそ、最後の最後までマサキの腕の中にいた。


ぬくもりを逃がさないように、これからの長い夜をひとりでも強く過ごせるために、と。


だから重くなったまぶたに必死で抗おうとしていたのに、蓄積されすぎた疲労はそれを許してはくれない。


数日まともに寝てなかった上に、今日は一日中遊んで過ごした。


こうならないようにとはしゃいでいたのに、何だかそれがアダになったような気さえして、少しばかり悲しかった。


もっと言いたいことはいっぱいあったし、伝えきれなかったことばかりだ。


けど、でも、これは別れなんかじゃないから。



「俺らが幸せになるための、これは武者修行みてぇなもんだろ?」


手放しそうな意識の端で、マサキの笑いの混じる声が聞こえた。


あぁ、もうすぐあたしの“特別”が終わってしまうね。



「だから花嫁衣装で待ってろよ。」










今となってはそんな言葉すら、マサキが発したものなのか、それとも夢の中で聞いたものなのかはわからない。


だってあたしが眠りから目を覚ました時、そこに彼はいなかったから、確認のしようがなかった。


けれど、大丈夫。


きっとこれが本当の意味での始まりだったのだと思う。


長過ぎた夜が明けていた。

< 397 / 409 >

この作品をシェア

pagetop