潮騒
更衣室に戻ろうと扉に手を掛けた時、室内から他の女の子達の笑い混じりの話し声が聞こえ、動けなくなってしまう。


別に聞く気はなかったのだけれど、良い話でないことくらいはすぐにわかるから。



「さっきの店長の話、ありえないよねー!」


「そうそう、ルカさんを追い越すことを目標にー、って、無茶言わないでほしいよ!」


「客と寝てナンバーワンになった女を目指せってそれ、うちらにもマクラしろってことかよー、みたいな!」


そう、あたしはマクラ嬢だ。


キャバクラに来る客というのは本当に様々だけど、でもお金のためなら何だってやってやる。


例え人に蔑まれようとも、元々価値のないあたしだ、こんな程度じゃ傷ついたりなんかしない。


何事もなかったかのような素振りでドアを開けると、彼女達は焦ったように笑い、そそくさとあたしに背を向ける。



「ルカさん、お疲れ様でーす。」


「はいはい、お疲れ様。」


手をひらひらとさせて見送ってやると、人のいなくなった更衣室は嫌な静寂に包まれる。


あたしは携帯を確認し、ため息にも似た息を吐いた。


キャバクラ嬢と呼ばれるものになって、早二年。


単純にあたしとの会話を楽しむために通ってくれてる人もいるけれど、でも大半は、最終的には体を求めてくる。


その誘いに乗り、一時の憂鬱な想いを堪えれば、金が得られるというだけのこと。



「あぁ、もう、気持ち悪い。」


何も変わり映えしない毎日に、あたしは気付かぬうちに疲弊していたのかもしれない。


けれど、こんなにもグレーに染まった日々から、どうやって抜け出せというのだろう。


たくさんのメールを受信している携帯の画面を確認することもなく、あたしはそれを閉じ、バッグに投げ入れた。

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